民俗芸能

岩崎鬼剣舞保存会

繰り返し踊ることで体に染み込ませ、伝承されてきた地域の芸能。

8人で踊るのが鬼剣舞の基本。全部で18演目あるといわれている。

展示の見どころ

繰り返し行った稽古のはてに体得した激しい動き。そこから生まれると気合いと願い。「やってこそわかる」鬼剣舞(おにけんばい)のおもしろさを体感できる展示となります。

勇壮に跳躍する鬼剣舞の動画を、副音声とともにお楽しみいただけます。動きの意味などの解説を民俗芸能研究者と弊財団学芸員が行なっています。

コマ撮りした写真を並べ、どのように力が働き、どのように体が動いているかを解説。そこに込められた「気合い」の道筋を感じていただけます。

<取材記>展示企画クリエイターが、岩手県・北上市和賀地区を訪ね、岩崎鬼剣舞の魅力をレポートします。

稲刈りを終えた田んぼが両側に広がる細い道に、晴れやかな衣装をつけた若者たちが三々五々集まってきました。北上市和賀町にある岩崎二前神社の例大祭で、岩崎鬼剣舞保存会の踊りが、神前で奉納されるのです。

岩崎鬼剣舞保存会のメンバーのうち、現役の踊り手は20〜30代とかなり年齢層が若く、なかには高校を卒業したばかり、18〜19歳の若者の姿も見られます。全国の多くの地域で後継者不足に悩まされるなか、たくさんの若い男性が民俗芸能に携わっていることに驚くと同時に、彼らのがっしりとした体、そして衣装をつけて立っている姿が、なんとも誇らしげで、気合いに満ちていたのが印象的でした。
その誇りと気合いは、このあと勇壮で厳かな踊りで、さらに満ち満ちてくるのです。

岩崎二前神社での奉納舞のあと、神主の家へ歩いて向かう。

鬼剣舞とは岩手県北上郡の農民たちによって伝承されてきた民俗芸能で、北上地域には集落ごとに13の保存会が存在して、それぞれに芸能を継承しています。そのなかで、この地域の岩崎鬼剣舞は「元祖」とされ、昔ながらの舞の所作を残しながら伝えられてきたといわれています。

鬼剣舞のルーツは修験の祖である役行者(えんのぎょうじゃ)による念仏踊り。のちに羽黒山で修行した山伏が広めたといわれている1300年もの歴史をもつ芸能です。

「鬼」という名前がつくけれども、彼らの面に角がなく、仏の化身だといわれています。もともとは、大地を踏みしめて邪気を払う「反閇(へんばい)」という所作が、「ケンベイ」「ケンバイ」と発音されたことで「剣舞」の字があてられ、さらには異形の面を付けて舞うことにより「鬼」の名がつけられたといわれています。

もともと陰陽道や密教の柔術的な所作であった「反閇」は、さまざまな舞踊や芸能の基礎となったもの。相撲で力士が四股を踏み、場を清める動きにも「反閇」の名残を見ることができます。

面は全部で5色。陰陽五行説の方位と季節、仏教の五大明王を象徴するといわれる。

この日、例大祭では、神社の拝殿前で美しい節のついた念仏を唱えたあと、神前でのみ舞われる「二番庭」という演目の奉納から始まりました。

岩崎鬼剣舞は、勇壮で躍動的、力強い足踏みで大地の悪霊を退散させて、五穀豊穣を祈ることが特徴とされています。しかしながら、実際に目にしたその舞は、想像していたよりもはるかに軽やかで、しなやかでした。

極端に低く腰を落とした位置から、扇をかざしながら軽々と飛び跳ねて、着地してまた低く腰を落とす。腰をひねってまわり、着地しては跳ね上がるという上下運動のバリエーション。
笛、太鼓、手平鉦(てびらがね)のゆったりとした演奏にあわせて、ときに列になって、ときに輪になって、繰り返されます。

飛び跳ねるたびに、「毛采(けざい)」と呼ばれる頭の上につけた装飾が波打つように揺れて勇壮さ、たくましさを際立たせています。そのキレのある動き、みんなで踊る群舞ならではのかっこよさに見惚れてしまいました。

頭の上の装飾「毛采(けざい)」は馬のしっぽ。それぞれの踊り手に合うように、庭元が手作りしている。

驚くのは、繰り返し大地を踏みしめるために繰り返される跳躍が、なんとも動物的であること。土俵で四股を踏むときのように、力まかせに脚を下ろすのではなく、まるで重力に逆らうかのように、音をたてずに着地をして、その位置から軽々と跳ね上がるのです。

その一連の動きは、厳かに、優雅な動作でおこなわれていましたが、およそ8分間舞い続いけたあと、片膝を立てて座り、休みの姿勢になったとき、8人全員が肩で息をしているのを見て、それまでの踊りがどれだけハードだったかを改めて認識することができました。

幼稚園児たちによる奉納舞。

保存会による踊りのあとは、地域の幼稚園児たちによる踊りが奉納。これまで一生懸命稽古してきた道のりが感じられ、まわりのおとなたちも堂々した踊り姿に頬を緩めていました。

その後は、田んぼ沿いの道を歩いて、神主の家へ移動。庭先で例大祭の来賓のために、「一人加護」「三番庭」「カニムクリ」という3つの演目が舞われました。

「一人加護」は、非常に特別な演目で、「庭元」と呼ばれる指導者で会のトップに認められた人しか舞うことが許されていません。四方八方に手や脚をのばす勇壮な舞で、目に見えない悪霊を追い払っているといいます。

「カニムクリ」は、見ている人を楽しませる余興的な演目。ふたりペアになって、背中合わせで相手をかついだり、おろしたりを繰り返して、アクロバティックな技で場を沸かせました。

勇壮な「一人加護」とアクロバティックな舞で会場をわかせる「カニムクリ」。

踊りが激しくなると、ときおり「とぅー」という掛け声があがり、それに呼応するかのように、他の踊り手からも「とー」「おー」と、あちこちから声があがります。

「掛け声をあげるのは、とにかく苦しいとき。もうだめだっていうときに、声をだして自分を奮い立たせて、がんばってやっているんです」と教えてくれたのは、岩崎鬼剣舞保存会会長の八重樫俊一さんです。鬼剣舞の踊りは、きつめのスクワットを演目の間中、ずっとしているようなもの。さらに、お面をしているから、息ができずに本当に苦しいのだそう。「けれども、終わったあとの爽快感はなにものにも代え難いんです」と自身も踊り手であったときのことを振り返り笑います。

鬼剣舞はその激しさゆえに、現役として踊れるのは40歳くらいまで。それ以降は世話役や指導者、楽器の演奏者などとなり、鬼剣舞を伝承していくのだといいます。

「三番庭」。

「僕たちは生まれたときから鬼剣舞がありましたから」
どうして鬼剣舞をやるようになったのか尋ねたら、保存会の20代男性は、なにも特別なことではないといわんばかりに、さらりと答えてくれました。彼は、鬼剣舞をするために地元での就職を希望して、現在も踊り続けているといいます。

現在は、幼稚園から鬼剣舞を始め、小学校のスポーツクラブ、高校の郷土芸能部でも鬼剣舞に親しみ、高校卒業後に保存会へと入る人が多いといいます。昔は男性が中心でしたが、現在は女性の踊り手もいて、高校の郷土芸能部の半分以上は女性だといいます。

北上市の博物館で、鬼剣舞の資料が展示している『鬼の館』を訪れたとき、別の保存会が鬼剣舞の公演をやっていました。そこで印象的だったのは、舞台を見ていた3歳くらいの男の子。自分用の小さい面や扇、刀をもって、舞台を見ながら踊っているのです。聞くと、子どものお父さんが鬼剣舞の舞い手で、父親に憧れて自分でも練習しているのだといいます。それは堂々たる踊りっぷりでした。

腰につけられた「脱垂(ぬきだれ)」には、平安時代、鬼剣舞が好きで領内に広めた武将、安倍貞任・正任が描かれている。

これが彼らの日常なのでしょう。
生まれたときから、鬼剣舞はいつでも身近にあって、鬼剣舞の上手な踊り手は憧れの存在。
小さいころから繰り返し踊り、体に染み込ませていくことで、地域に伝わる踊りを体得して、次の世代へ伝えていく。それが代々繰り返されてきたのでしょう。これまで岩崎鬼剣舞保存会では、後継者不足になったことは一度もなかったといいます。

時代とともに踊りが変わってくる会もあるといいますが、岩崎鬼剣舞保存会では、ひたむきで、たくましく、自分自身と向き合うかのような厳かな踊りのスタイルが守られています。

大切なのは「心技体」だと、岩崎鬼剣舞保存会の庭元の和田勇市さんはいいます。庭元もかつては「一人加護」を踊り、みんなが憧れる踊り手でした。
「鬼剣舞は見ているだけじゃわからない。実際に体を動かして、踊ってみてこそなんです」

自分を高めること。努力し続けること。そうした日常のなかで、繰り返し行った稽古のはてに体得した激しい動きだからこそ、彼らの舞からは誇りと気合いがあふれでるのでしょう。「踊ってこそわかる」鬼剣舞のおもしろさを体感してみてください。

民俗芸能

岩崎鬼剣舞保存会

岩手県北上地方の農村地帯に古くから伝わる民俗芸能。北上市に13ある鬼剣舞の団体のうち、岩崎鬼剣舞はその源流といわれている。発祥は大宝年間(701〜704年)、修験の祖である役行者(小角)が念仏を唱えながら踊ったことが始まりとされ、大地を踏みしめ邪気を払う「反閇(へんばい)」が「ケンベイ」「ケンバイ」と発音されたことで、「剣舞」の字があてられたといわれている。念仏を唱えながら踊る「念仏剣舞」の一種であるが、異形の面をつけて勇壮に踊るところから、明治以降、「鬼剣舞」と呼ばれるようになった。踊り手は基本的に8人一組で構成されるが、演目によっては4人、6人、あるいは2人でアクロバット的な余興として踊ることもある。盆になると鬼剣舞の一団が家々を訪れ父祖たちの霊をなぐさめて踊っている風景がよくみられた。現在、夏油温泉かがり火公演(7〜8月)、北上みちのく芸能まつり(8月)、岩崎二前神社祭礼(10月)などで公演を行っている。
出演記録映画 | http://www.polaculture.or.jp

クレジット

取材・編集 : 岡田カーヤ
写真 : bozzo

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